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横浜地方裁判所 昭和63年(ワ)1690号 判決

原告 株式会社 高木運輸

右代表者代者取締役 高木悦子

右訴訟代理人弁護士 大谷喜与士

同 北川鑑一

被告 山我運輸有限会社

右代表者代表取締役 山我誠司

右訴訟代理人弁護士 石黒康仁

主文

被告は、原告に対し、三〇七万九七九〇円及びうち二七七万九七九〇円に対する昭和六三年三月一一日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は九分し、その一を原告の、その余を被告の各負担とする。

この判決は、第一項につき、仮に執行することができる。

事実

第一申立

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、三五四万〇一九〇円及びうち三二二万〇一九〇円に対する昭和六三年三月一一日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二主張

請求原因

一  事故の発生

1  日時 昭和六三年三月一〇日午前七時五五分ころ

2  場所 埼玉県北葛飾郡栗橋町栗橋三二〇八―二(以下「本件事故現場」という。)

3  加害車 大型貨物自動車(群馬八八あ一八四三)

4  右運転者 山我英誠(以下「英誠」という。)

5  被害車 大型貨物自動車(横浜一一き五二七三)

6  事故の態様 加害車が停車していた被害車に追突した(以下「本件事故」という。)。

二  責任原因

本件事故は、被告の従業員で加害車の運転者である英誠が、被告の業務の執行中に、前方不注視の過失により発生させたものであるから、被告には、民法七一五条一項により、原告に対し、後記損害を賠償する責任がある。

三  損害

原告は、本件事故により以下のとおり損害を被った。

1  修理費 二〇二万九七九〇円

原告は、被害車の修理費として右金額を要した。

神奈川県においては、初年度登録から四年を経過した中古車両は、運送業の営業用車両としての登録ができないところ、被害車の初年度登録年月は、昭和五五年九月であり、新たに同種中古車両を購入したとしても、事故時ではもはや登録することが不可能である。したがって、新たに中古車両を購入して登録するにしても、初年度登録が昭和六〇年以降の車両が必要となるのである。そのため、原告としては、被害車を修理して継続使用せざるを得ず、右金額の修理費を要した。なお、初年度登録が昭和六〇年度の車両の価格は、右修理費を上回っており(初年度登録が昭和五九年度の車両も同様である。)、原告としては、車両価格と修理費を比較し安価な方の価格で請求をなしたものである。

2  休車損害 一一九万〇四〇〇円

被害車の休車損害は、一日当り三万九六八〇円である。

休車損害の算定に当たっては、まず当該休車がなければ得たであろう営業収益を算出し、そこから当該休車のために免れた支出額、すなわち、流動経費を控除すればよい。右金額は、そのようにして算出したものである。

ところで、原告の昭和六二年度営業収益は、六億六一四五万八〇〇〇円、流動経費は、一億三一一〇万三〇〇〇円である。したがって、右年度の休車損害の基礎となる金額は、五億三〇三五万五〇〇〇円である。そして、これを一日一台当りに換算すると、原告は、六一台の車両を保有しているから二万三八二〇円となる。ただし、右金額は、あくまで平均の数値であり、被害車のごとき一一トン車であれば、この額は、更に増大するため、原告の前記主張額は、妥当な金額である。

被告は、当初原告に対し、保険会社を通じて修理費を支払う旨約束していた。ところが、その後一ヶ月を経過しても、被告は支払をせず、そのため原告は、やむを得ず、自らの費用で修理をした。そして、結局、被害車が再び稼動するまでに五〇日間を要している。原告は、そのうち、三〇日分を休車損害として請求するものである。

3  弁護士費用 三二万円

原告は、被告が任意に右損害の支払いをしないために、その賠償請求をするため、原告代理人に対し、本件訴訟の提起及びその遂行を依頼したが、右金額が本件事故と相当因果関係があるものである。

合計 三五四万〇一九〇円

よって、原告は、被告に対し、右損害金三五四万〇一九〇円及びうち弁護士費用を除く三二二万〇一九〇円に対する本件事故発生の日の後である昭和六三年三月一一日から支払いずみまで民法所定の年五分の割合による損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1(事故の発生)及び2(責任原因)の事実は認める。

2  同3(損害)の事実は不知ないし争う。

(一) 修理費について

本件は、修理費が車両の時価を著しく超える場合であり、時価をもって損害と認めるのが相当である。

被害車は、初年度登録が昭和五五年九月の事業用大型貨物自動車であり、本件事故当時、すでに法定耐用年数(四年)を超えていたものである。しかも、原告の保有車両全車の平均車令は、昭和六三年三月末時点で、四年一一月とのことであり、これをも大きく上回っている。

オートガイド価格月報昭和六三年一月二月版では、被害車と同種同型のものとしては、昭和五八年登録までのものしかなく、同年登録で中古車卸売価格は二一〇万円となっている(新車価格七二八万円)。昭和五五年登録の車両で掲載されているのは、オートガイド価格月報昭和六〇年五月六月版であり、中古車卸売価格は一七〇万円である(新車価格七〇二万円)。また、日本自動車査定協会の査定によれば、被害車の昭和六三年一一月二五日時点での価格は、三一万六〇〇〇円となっている。

なお、神奈川陸運支局によれば、昭和五九年ころの関東陸運局の通達により、事業用大型貨物自動車の代替については、登録後六年経過前であれば、事業用として登録可能とのことである。

(二) 休車損害について

原告は、全部で六一台の車両を保有し、うち積載量が一〇トンを超える車両が一三台あり、仮に、本件事故当時遊休車両があったとすれば、休車損害は発生しない。

一般に休車損害を算定する場合には、営業収入から流動経費のみを控除しているが、仮に、被害車担当の運転手が他の乗務についたり、他の仕事に従事していたのであれば、その方面の仕事の経費(人件費)が節約できるのであり、人件費をも控除対象に入れないのは、不公平である。

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因1(事故の発生)及び2(責任原因)の各事実は当事者間に争いがない。したがって、被告は、原告の後記損害を賠償する責任がある。

二  同3(損害)の事実について判断する。

1  修理費 二〇二万九七九〇円

《証拠省略》によれば、以下の事実が認められる。

原被告は、当初被害車を修理することとし、被告の加入している保険会社である大正海上火災保険株式会社と神奈川日産ディーゼル株式会社との間で修理費の協定をしたが、その額が二〇二万九七九〇円と高額であったため、被告は、修理費が被害車の価額を上回り、被害車の価額が七、八〇万円であるとして、被告側が修理に難色を示した。その間右見積が出たのが昭和六三年四月八日であり、その後も修理がなされなかったため、原告は、四月三〇日神奈川日産ディーゼル株式会社から被害車を引き上げ、自社で修理を行った。そして、連休中も修理をしたが、結局被害車の修理を終え、稼働を開始したのは、五月一七日であった。被害車は、初年度登録が昭和五五年九月登録であり、日本自動車査定協会の査定によれば、被害車の昭和六三年一一月二五日時点での価格は、三一万六〇〇〇円であった。

右によれば、被害車の昭和六三年一一月二五日時点での価格は、三一万六〇〇〇円であり、事故時である同年三月一〇日時点での価額は、若干右金額を上回るとしても、右価額は、前記修理費額を下回るから、被害車の車両破損によること自体の損害は、車両価額を上回ることはないから、本来であれば、被告は、車両価額の限度で損害賠償責任を負う筋合いである。

しかしながら、《証拠省略》によれば、被害車は、事業用大型貨物自動車であり、現実に事業用に供されていることが認められ、関東陸運局自動車第二部長の神奈川県陸運事務所長あての昭和五九年四月二六日づけの八四東陸自二貨二乙第一三号「一般区域貨物自動車運送事業の事業計画変更申請等の取扱いについて」と題する書面によれば、当分の間関東陸運局管内の貨物自動車運送事業者の事業計画変更(増車、代替)の際の車両の車令は概ね六年程度まで認めることとなっていることが当裁判所に顕著である。

右によれば、事業用大型貨物自動車の代替については、登録後六年を経過した車両は、事業用として登録が不可能であるため、前記の登録後七年六ヶ月を超える車両の再調達価額をもってしては、事業用自動車を調達することは不可能である(前記自動車査定協会の査定価格が著しく低額であるのも右事情が影響しているとみられる。)。

そうすると、原告が事業用自動車を再調達するためには、少なくとも、初年度登録から六年を経過していない車両を購入する必要があるし、それができなければ、原告の損害を回復することにはならない。したがって、本件においては、初年度から六年を経過していない、被害車と同種同等の車両の調達価額と前記修理費を対比し、いずれか低額の方を車両損害とするのが相当であるとみるほかない。

そこで、本件事故時から六年前の昭和五七年登録車両の本件事故時の価額をみるに、《証拠省略》によれば、オートガイド価格月報昭和六三年一月二月版では、被害車と同種同等の車両についての記載は、昭和五八年登録までのものしかなく、同年登録の中古車平均販売価額は三〇〇万円(新車価格は七二八万円)となっており、昭和五五年登録の車両で掲載されているのは、オートガイド価格月報昭和六〇年五月六月版であり、中古車平均販売価格は二四〇万円である(被告は、卸売価額の主張をしているが、再調達価額は小売価額をいうものであることは当然である。)ことが認められる。右の記載からみるに、昭和六三年一、二月当時の五八年登録車両の価額からみて、昭和五七年登録車両の価額(小売価額)は、修理費である二〇二万九七九〇円を下回ることはないものというべきである。

そうすると、右修理費額をもって損害とみるのが相当である。

2  休車損害 七五万円

《証拠省略》によれば、原告は、前記のような経緯により、被害車の修理に相当日時を要したが、その間営業収入を得られなかった反面、被害車を運行した場合要した経費(燃料費、オイル油脂代、修理事故費、タイヤ、フラップ、組み込み作業その他)の支出を免れたものであり、その間被害車の運転手であった高澤秀雄は、原告会社では、一人乗務が原則であるが、原告の他の車両の運転助手等の業務に就いていたことが認められる。

ところで、《証拠省略》によれば、営業収入損害の詳細は、別表の基礎となる数値が妥当であることが認められるが、その計算方法は不備な点がある。すなわち、別表の一日走行量は、例えば一二月でいえば、月額合計を稼働日数である二七日で除しているが、それから控除すべき欄では、修理事故費を三〇日で除しており、これでは、経費を過少に計算することとなる。また、総計は、稼働日数ではなく、当該月の全日数で除すべきである。このようにして、別表の数字を基礎として正確に休車損害を計算すると、一二月は一日あたり四万四〇九三円、一月は二万一三六五円、二月は二万二九七八円である。また、一二月は極めて営業収入が大きいが、一、二月は大きく落ち込んでおり、その季節変動を考慮すると、その直前三ヶ月の平均収入をとることは、妥当とはいえない。そこで、右三ヶ月の収入を参考にし、その収入の変動を考慮すると、控えめにみて、原告の被害車による営業収入は、日額二万五〇〇〇円とするのが相当である(《証拠省略》による原告の収益と対比しても、不自然ではない。)。

なお、被告は、人件費を控除するよう主張するが、人件費等の固定経費は、休車期間中も支出を免れない性質のものであるから、損益相殺の観点からみて、控除しないが相当である。ただし、運転手が他の車両の運転手をするなどした場合には、人件費も控除するのが相当であるといえるが、本件の場合には、前記のように、運転手が他の車両の運転業務についていたものではないから相当ではない。

そして、前認定のように、どのような事情によるかは明確ではないにしろ、事故日から見積価額が出るまで二九日を要しており、修理日数自体も相当期間を要しているのであるから、その休車期間は原告主張の三〇日を下回ることはないものというべきであり、その休車損害は次の計算式のとおり、右金額となる。

(計算式)

二万五〇〇〇円×三〇日=七五万円

小計 二七七万九七九〇円

3  弁護士費用 三〇万円

弁論の全趣旨によれば、原告は、被告が任意に右損害の支払をしないので、その賠償請求をするため、原告代理人らに対し、本件訴訟の提起及びその遂行を依頼したことが認められ、本件事案の内容、訴訟の経過及び請求認容額に照らせば、弁護士費用として被告に損害賠償を求めうる額は、右金額が相当である。

合計 三〇七万九七九〇円

三  以上のとおり、原告の本訴請求は、被告に対し、右損害金三〇七万九七九〇円及びうち弁護士費用を除く二七七万九七九〇円に対する本件事故の日である昭和六三年三月一一日から支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用については民事訴訟法八九条、九二条、仮執行宣言については同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 宮川博史)

〈以下省略〉

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